ハロー、ナイトメア01






『やあ、君に手紙を書くのは初めてだね。
 というより、そもそも最近手紙を書いた記憶がないや。仕事は全部メールだから。まさか久しぶりの手紙が君宛になるとは思わなかったよ。いつだって君は俺の想像通りに、予想外のことをしでかしてくれる。そこをとても気に入っていた……ああ、これじゃあ過去形になってしまうか。今ももちろん、そういうところも含めて愛してるよ。そんな言葉を簡単に言うから信用できないんだって、いつもみたいに怒ってるのかな。そうは言われてもこれが俺だしね。君はわかってると思うけど、ほら、素敵で無敵な新宿の情報屋さんはいろいろ厄介ごとが多い。いつ死ぬかわからないから後悔はしないように毎日生きないと。例えば突然刺されたり(あれにはびっくりした)、屋上から突き落とされたり(運び屋に念のため待機してもらってて助かったよ)、変な薬を飲まされそうになったり(口八丁で生きていて良かったとあのときは本気で思ったね! 俺の口上を信じて薬をさげた馬鹿がいたんだから)、交通事故に遭ったり(知ってる? 人が生涯交通事故に遭わない確立って五十パーセント以下らしいよ)。後は、うん、君が一番懸念していたのはシズちゃんに俺がいつか殺されるんじゃないかってことだったっけ。俺が化け物相手に死ぬわけないんだけどさ、確かこう言ってたよね。「人の生涯の運が人徳で決まるっていう話があるんですけど、それなら確実に臨也さんの人生はそろそろ終わると思います。誰が見ても静雄さんと臨也さんならそう言いますよ。前世にどれだけ善行積んでたんですか? 来世にまで借金しそうで、僕は見てておもし……不安です」面白いって言いかけておきながら撤回したからもうおかしくて。ねぇ、人徳とか善行とかそういう言葉を出すのなら君はどうなのかな? 後悔しないような、ツキがちゃんと貯まるような生き方をしてきたって胸が張れる? 難しいんじゃないかなぁ。だってさ、君は……いや、これはちゃんと会って話すよ。こんな紙に記したところで意味がない。
 話を戻そうか。愛してるって言っても君は鼻で笑って、はいはいありがとうございます光栄ですってものすごく適当な返事してさ(これ書いてみてわかったけど、あの投げやり感って紙面に表すの難しいね)。ずっと長い間チャットしてたときはさ、もっと上手く話す子なんだろうなって思ってたんだよ。愛してるって言われたくらいでうろたえて、泣きそうな顔で言葉を探して、俺の言葉を嘘だと決め付けてかかった途端いい加減な返事する子だとは思わなかった。ま、いいけどね。そんな君に惚れたわけだし。
 不思議なもので手紙を書く前は何を書こうかってずっと悩んでたのに気づけば結構な量になってたよ。え? そんなことない? いやいや、手で書いてみたらわかるって。俺さっきから利き手がぷるぷるしてるもん(俺の利き手がどっちだったか覚えてる?)。
 手紙ってものすごくタイムラグがあるから不安になるね。メールだったら送れば瞬時に相手のメールサーバーに入って、相手がいつ見るかはわからないけど君ならきっと毎晩メールチェックしてるだろうから、その日の晩には目に入ってたと思うんだ。携帯だったらもっと確認が早いだろうし。手紙だとそもそも届くのに一日二日かかって、ポストに入って、それから君の手に届いて、君が開けてくれるまでどれくらいの時間がかかるんだろう。君は返事を書くのは億劫だからメールですませようって思うかな。それならそれでいいよ。俺のメールアドレスは知ってると思うけど、念のため書いて……おきたいところだけどやめておくね。一文字違うだけで届かなくなるし、俺ってそんなに字がきれいじゃないから(自覚はしてるんだって)読みにくいって文句言われてもやだし(今更だって? ひどいな)その代わり、君が懇意にしていた人たちの名前をネットで検索かけたら俺と話せるチャットを用意しておくよ。それなら簡単だし、間違えないだろ? もしたくさん検索結果がヒットするようなら、名前を検索ボックスにどんどん増やしていってごらん。最後に残った一つが俺と君だけの会話ツールだ。楽しみに待ってるよ。なんでそんなややこしいことするのかって? 手間がかかったほうが楽しいだろ、いろいろとさ。
 最後に、これだけ。
 愛してるよ。君がどう思っていたとしても、これだけは本当のことだから、ありきたりな言葉だと怒られてもこう言うしかない。君がどんな風に変わっても俺の思いは変わらない自信があるんだ。ああ、またこんなこと書いたら怒られそうだから、あと百回くらい書きたいのをこらえてこれで終わりにするよ。愛してる』




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