ハロー、ナイトメア02
やけにねつれつならぶれたーだなぁ、とおもった。まるでどらまやえいがのなかのはなしみたいだ。
あいしてるってものすごくとくべつなことばらしいので、こんなひとにおもわれてる"きみ"とやらはきっとしあわせにちがいない。しんじてあげないなんてひどいな。
でもどうしてこれがぼくのところにきたんだろう、とくびをかしげる。かんごふ……かんごし、さんが、あなたにおてがみよ、ってわたしてくれたけど、ぼくはまだこどもだからこんなじょうねつてきならぶれたーをもらうりゆうがない。さしだしにんをみてみると、おりはら り……? りん、や? ってかいてあった。
かんじはかけないけど、よむことはできる(げーむでそだったせだいはそういうものだっておとうさんがいってた)。だけどこのひとのしたのなまえってなんてよむんだろう、へんななまえ。ぼくだってひとのこといえないけどさ。りゅうがみね みかどなんてとってもたいそうなふんいきをかもしだしてるなまえだ。ここのかんごしさんたちはぼくのなまえをわらったり、からかったりしないからいいけど、ともだちはすぐにへんななまえ、っていってくる。ぼくだってすきでこんななまえじゃないのに。でも、このひとならきっとぼくのなまえがへんだっていったりしないとおもう。ひとのふりみてわがふりなおせっていうか、なまえのおかしさならこのひとだっていいしょうぶだもん。なにかいわれても、ごじぶんのなまえをみてからいってくださいっていいかえせる。
「みーかーどーくーん」
まのびした、ききなれたこえがいりぐちからきこえた。そっちにめをむけると、ぴょこん、ってうさぎのぬいぐるみがかおをだしてる。それにぼくのほっぺがぷくーとふくらんだ。
「きだくん、ぼくそんなのでよろこぶこどもじゃないよ!」
「あはは、悪い悪い!」
あたまをきんいろにしたおにいさんがぼくのびょうしつにはいってくる。てにはうさぎのぬいぐるみと、えほん。
「でもさ、帝人はうさぎさん、大好きだろ?」
「ちがうよ、うさぎがすきなのはまさおみ!」
おさななじみかつしんゆうでしょうがいのらいばる(ってまさおみがいってた)のなまえをだすと、きだくんがちょっとだけかおをゆがめた。
なんでかはよくわからないんだけど、このきだくんもまさおみってなまえらしい。きだまさおみってどうせいどうめいがふたりもいるなんて! しかも、かみのいろいがいはまさおみににてるから、まさおみのおにいちゃんだっていわれたらぼくもしんじてしまうかもしれない。
はじめてあったとき……ぼくが、めをさましたときなんだけど、めのしたにくまをつくってたきだくんがなきそうなこえでなんどもぼくのなまえをよんでいた。よかったな、よかった、みかどって。すごいちからだったからこわくなって、きだくんのからだをぐいぐいおしながらへやのなかをさがしたけどおかあさんがいなくて、おとうさんもいなくて、ぼくときだくんしかいなくてこわくなった。
「あ、あの……おにいさん、だれですか?」
たぶん、ぼくのこえはなきそうになってたとおもう。だけどかんたんにないたりしたらまさおみに、しょうがないなぁこのろんりーぼうやは! とかいみのわからないことをいわれるからいっしょうけんめいこらえてた(そこにまさおみはいないのに)。
ぼくのしつもんにおにいさん……きだくんはばっとからだをはなして、ぼくのかたをつかんだまま、みかど? ってふしぎそうにたずねてきた。はい、ぼくはりゅうがみね みかどですってちゃんとこたえたのにきだくんはもういっかい、みかど? ってぼくのなまえをよんだのがふしぎだった。
そのあとかんごしさんたちがきて、おいしゃさんがきて、いろいろはなしをきかれた。にゅういんしているんだからぼくのとしとか、なまえとかわかってるはずなのにそういうことをきかれた。もしかしたらぼくはどこかからおちてあたまをうったりしてて、のうにいじょうがないかをしらべるてすとだったのかもしれない。なんだかずっとあたまがいたかったし。だからちゃんと、ぼくのなまえも、としも、もうすぐしょうがっこうにはいるんですってこととか、ちゃんとこたえた。そうしないとおうちにかえしてもらえないとおもったからだ。けっきょくちゃんとこたえてもいえにかえしてもらえてないけどさ。それがちょっとふまんだ。
でもおいしゃさんのしつもんにこたえたらおかあさんがきてくれた。うれしくなって、おかあさん! ってだきつこうとしたけど、なんだかへんだった。おかあさんがちいさくなってた。あれ、とおもってるぼくにおかあさんがだきついて、みかど、よかった、みかど、ってきだくんとおなじことを言ってったっけ。ほんのちょっとまえのできごとなのにずいぶんまえのことのようなきがする。
ぼくのからだがおっきくなったのは、ぼくがねてるあいだにぐんぐんせいちょうしたからなんだって。そういうびょうきなんだよっていわれた。あとからきいたはなしだけど、ぼくはかいだんからおちてずいぶんながいことねていたらしい。そのせいもあるかもしれないっていわれた。かいだんからおちるのと、かってにせいちょうするのとのかんけいはよくわかんないけど、びょうきならしかたない。どうして、ってきいてもおかあさんもおいしゃさんもこまったかおして、おとなになったらわかるよってしかいってくれないし。でももうすぐしょうがっこうにあがるはずだったのにいやだなぁ、なまえいがいにもからかわれるようそがふえちゃった。でも、ちいさいよりいいよねとおもった。そうだ、まさおみにじまんしてやろう。まさおみはぼくよりほんのちょっとおおきいことをほこらしげにしていたから、いまのぼくをみたらおどろくにちがいない。
そうおもって、おかあさんにまさおみにあいたいっていったらすごくこまったかおをしてきだくんのかおをみてた。
きだくんは、ごめんな、まさおみ、とおくにいっちゃったんだ。だからおれがかわりにここにいるんだとおしえてくれたけど、ぼくはもうそれがしょっくでしょっくで、からだじゅうのすいぶんがなくなるんじゃないかというくらいにないた。
もちろんいまでもゆるしてなんかいない。いっしょうゆるすもんか! ……ちょくせつあいにきたら、ちょっとだけならあってもいいかな、っておもってる、けど。でも、ちょくせつあやまるまではぜったいにゆるしてやらないとぼくはこころにきめているんだ。まさおみはぼくがなんでもかんでもゆるす、あまちゃんだとおもってるからこんなしうちをしたにちがいない。そんなことはないんだぞっていうことをみせないと。ぼくにだってゆずれないだいじないっせんというものがあるのだ。だからでんわをくれたって、てがみをくれたってぜったいにゆるしてあげたりしない。あ、そういえばてがみ。
「ねえきだくん」
ぼくがすわっているまっしろなべっどのとなりにきだくんがこしかけて、さあえほんをよんでやる! とせんげんしたのをむししながら、てーぶるにおいていたてがみをてにとった。
「お前はほんとクールだよなぁ……で、何だ? 何か聞きたいことでもあるのか?」
きだくんはもっていたぬいぐるみとえほんをべっどのあいてるところにおいて、ぼくのめをじっとみつめる。
「これ、なんてよむかわかる?」
あのらぶれたーのさしだしにんのところをゆびさしてきくと、きだくんは、いきなりこわいかおになった。おもわずぼくがかたまってしまったくらいに。
「帝人、これどうしたんだ」
「え、えっと……その」
ものすごくおこってるこえをだすきだくんがこわい。きだくんはいつもにこにこしてて、ぼくがなにいってもおこったりしないのに、なんで。もしかしてこれはきだくんにみせちゃいけないものだったんだろうか。
あわてててがみをかくそうとしたけど、それよりさきにぱっときだくんにとられてしまった。きだくんはおこっているかおからむひょうじょうになって、じっとてがみを、せいかくにはさしだしにんをみていた。
「あ、あのね、かんごしさんが、ぼくにおたよりだよってくれて、それで、なまえもぼくのだったから、あの」
きだくんのふんいきがこわくて、しゃべろうとしてもこえがぶるぶるふるえてしまう。おこられるんだろうか。もしかして、このびょういんにはぼくとどうせいどうめいのひとでもいたんだろうか。そんなわけないか。こんなぎょうぎょうしいなまえがそうそうあってもこまる。
「きだ、くん……?」
おそるおそるなまえをよぶときだくんは、てがみをもってないほうのてでりょうめをおおった。ちくしょう、ってちいさくつぶやくこえがきこえたけど、ぼくがなにかいうよりもさきにきだくんはくるりとぼくのほうをふりむいた。そのかおにうかんでいたのは、いつものきだくんのえがおだ。
「いやー、ごめんな、帝人! ちょっと知り合いっていうか、俺の苦手なやつの名前に似てるかなー? って思ったけど違ってた! 驚かせてごめんな?」
ぼくのあたまをなでながらきだくんがそういったので、ぼくはほっといきをはきだす。なんだか、ちょっとむりをしてるようにみえるえがおだけどきっとそこはつっこんじゃいけないんだろう。きだくんはぼくよりおとなだから、こどもにつっこまれたくないこともあるにちがいない。
「でさ、この手紙、中身読んだのか?」
「えっと、うん。ちょっとだけ。かんじがおおくてわからなかったから」
うそだ。ほんとうはぼくはもうかんじがよめるし、さいごまでよんでしまったけど、そういっちゃいけないきがしてうそをついた。それに、かんじがよめるってばれたら『あれ』がみつかったときにやっかいだ。
「そうか! それならいいんだ。帝人はいい子だから、こんな悪筆な手紙に目を通しちゃだめだぞ?」
あくひつ。たしかに、おせじにもじがきれいとはいいがたいし、てがみにもそうかいてあったけど、よめないこともないじだった。でもきたないじのてがみをよんだらぼくのじもきたなくなっちゃうのかな。きをつけておこう。
「な、帝人……これ、俺が持って帰っていいか?」
「え……?」
ぼくのへんじをまたずにきだくんが、いいよな、とえがおでねんをおすようにいうからぼくはしぶしぶ、うん、とうなづいた。まぁ、いっかいよんだものだからべつにいいか。すぱいえいがみたいに『なおこのしれいしょはよんだらばくはつする』みたいになったとおもうことにしよう。あ、そうかんがえたらちょっとたのしいかもしれない。
きだくんはぼくがうなずいたことにしんそこほっとしたしたようにかおをほころばせ、それからぎゅうとぼくのからだをだきしめた。ちょっといたい。でもきだくんはときどきこうやっていたいくらいのちからでぼくをだきしめることがあって、いたい、っていってもなかなかはなしてくれないからぼくはあきらめて、きだくんのかたにあたまをのせた。そのあたまをいいこいいこってするみたいになでられる。
「大丈夫だから、帝人。ちゃんと俺が側にいる。今度はぜったい、間違えないから」
なにを? とはきけなかった。きだくんはときどきこうやっていみのわからないことをいう。まちがえないってなんなんだろう。よくわからないし、きいてもあいまいにわらってはぐらかされるからきくのもめんどうくさい。うーん、きだくんってぼくよりおにいちゃんなのに、ときどきこどもみたいなんだよね。でもべつにいやじゃないし、ぼくだってこうなったときのきだくんにどうしてあげるのがいちばんいいかちゃんとおぼえたんだ。
「きだくん」
ぎゅう、とだきしめかえすと、きだくんのてからちからがぬける。ゆっくりとあたまをあげて、まぢかにあるきだくんのほほにくちびるをおしつけた。
「だいじょうぶ、ぼくもちゃんとそばにいるから」
ぼくがないてるときにおかあさんが、ほっぺたにちゅうしてくれるから、きだくんにこうやってぎゅうぎゅうにだきしめられてさんかいめくらいのときにこうしてあげた。そうしたらきだくんがわらうから、それからはずっとこうしてる。だからきだくんの、このぎゅーがなけないかわりのぎゅーなんだってぼくにもわかった。ぼくよりおにいさんだけど、なきたいときってあるよね。でも、ぼくだってだれにでもこうするわけじゃない。きだくんはまさおみににてるからとくべつだ。
きだくんはしばらく、ぼくのかたにかおをうずめて、ぼくがぽん、ぽん、とせなかをたたくのにみをまかせていた。どのくらいじかんがたったかわからないけど、ふー、ってふかくいきをはきだすおとがした。
「……ごめんな、帝人。こんな紀田君で」
「いいよ、きだくんがそんなだってことはぼくもよくしってるから」
いつものようにいわれたことばにいつものようにかえすと、きだくんは、みかどのどえす! って言った。きだくんのかおにえがおがもどってあんしんする。うん、きだくんはわらってるほうがきだくんっぽいよ。
なんとなくめをきだくんがもってるてがみのほうにやると、おもいきりきだくんがにぎりしめていたせいでぐしゃぐしゃになっていた。あーあ、とおもうけど、べつにいいや。あ、でも。
「きだくん、そのてがみはあげるけど、かわりにおねがいがあるんだ」
「お願い? なんだなんだ、ナースなお姉さん達のナンパの仕方か? くぅ、お前も隅に置けないな! 帝人!」
きだくんはもういつもどおりのきだくんだった。
「ちがうよ、きだくんじゃあるまいし……あのね、いつもみたいにおはなしきかせて?」
きだくんはいけぶくろっていうところでくらしていたらしい。ぼくはいったことがないけど、きかせてもらうはなしはすごくゆめとろまんにあふれていた。えほんなんかよりも、ずっとそっちのほうがたのしい。
「またかぁ? そんなおもしろい話じゃないと思うんだけどな」
「おもしろいよ! けんかにんぎょうのはなしとか、すごくかっこいいし!」
じどうはんばいきとか、ひょうしきをなげてたたかういけぶくろのじどうけんかにんぎょうのはなしはなんどきいてもむねおどる。すごいなぁ。だけど、いつもなにとたたかってるのかはきだくんはおしえてくれない。けんかにんぎょうのしずおさんとたたかうあいてはきっとにんげんじゃないから、なまえがないのかもしれない。
「はいはい、わかりました。わかりました」
きだくんはぼくにおちつけ、っていうみたいにかたをぽんぽんとたたくと、こほん、とわざとらしいせきをした。
「それでは紀田君の、池袋スペシャルヒストリーのはじまりはじまりー!」
そのまえおきはいらないとおもう。
めんかいじかんがおわって、きだくんもかえっちゃうとぼくひとりしかいないへやはきゅうにひろくなったようにかんじる。ぼくだけなんだからもっとせまいへやでいいのになっておもうんだけど、そういうものじゃないらしい。りゆうはよくわからない。いえにかえれないりゆうもおしえてもらえない。ぼくがこどもだからいってもわからないっておもわれてるんじゃないかな。まいにちあさはおかあさんがきてくれて、おひるはきだくんがあそびにきてくれるからさびしくはないけど、ちょっとたいくつだ。
ばんごはんをたべおわって、いつものようにきょうあったことをにっきにかいた。これはおいしゃさんにちゃんとかいておこうねっていわれたからかくことにしてる。てがみがとどいたことはかいたほうがいいのかなっておもったけど、きだくんのむひょうじょうをおもいだしてやめておいた。
いつものじかんにかんごしさんがきて、ねるじかんだよ、みかどくんおやすみっていわれたからふとんをかぶって、おやすみなさいとへんじをする。にこにこわらってかんごしさんがでんきをけした。まどのそとはまんげつで、きょうはひときわあかるいからでんきがなくてもへやはくらくない。
かんごしさんのあしおとがとおくにいったのをかくにんしてから、ぼくはもそもそとおきあがり、べっどのしたの、ぼくのきがえとかがはいっているかばんをひっぱりだした。そのなかのいちばんしたにあるめあてのあれをとりだすとかってにかおがにんまりとしてしまう。
あれ、っていうのはくろくてちいさな、ノートパソコンだ。こんなにうすくてちいさいのにスペックはすごい。でんげんをいれたらあんまりまたずにたちあがる。
ほんのちょっとまえに、ねれなくてぼーっとしてたら、よるのみまわりにきたかんごしさんがこれをわたしてくれた。
「ずっと病院にいるのは暇でしょう? これ、帝人君にだけあげる。他のみんなには内緒よ。羨ましがられて、とられちゃうかもしれないし、紀田君に怒られるから、ね?」
はじめてあったそのかんごしさんはすごくきれいなひとだったけど、そういえばあれからいちどもみてないや。べつに、どうでもいいのだけど。
いわれたとおりぼくはこれのことをだれにもいってない。だってパソコンはみんなにきいてもおしえてくれないことをちゃんとおしえてくれる、ぼくのだいじなツールだ。とられるなんてぜったいにいやだ。
パソコンはおとうさんやおかあさんがつかっていたからつかいかたはしっていた。ぼくがするのはインターネットだけだけど、ネットのうみはぼうだいで、あっというまにじかんがすぎてしまう。だけどよるのくじなんてはやいじかんにはねむれるわけがないからこうやってパソコンであそんで、じゅうにじくらいになったらねむるせいかつをさいきんはつづけている。
いつもネットをひらいたらでてくるがめんをみながら、きょうはなにをけんさくしようかなとかんがえた。きのうとおとといとそのまえのひは、まさおみとよくあそんだげーむのきゃらくたーのぺーじをずっとみてじかんをついやした。ごひゃくしゅるいちかくいるんだからそれくらいかかってもおかしくない。でも、もうぜんぶみてしまったからなぁ。
ふむ、とうでぐみをするとなんだかじぶんがパソコンをつかいこなすえらいせんせいみたいなきもちになった。ちょっとたのしい。そうだ、きょうはきだくんがしてくれたはなしをけんさくしてみよう。しずおさんってものすごくふぃくしょんなそんざいだけど、きだくんはほんとうにいるっていってたし、それならネットでみつかるかもしれない。
だけど『しずお』とけんさくしてみてもものすごくたくさんヒットするだけで、めあてのものはでなかった。ちょっとしょんぼりしてしまったけど、たしかにしずおというなまえはよくあるなまえだからしかたない。それなら、とおもって『しずお』のうしろに『あんり』とか『かどたさん』とかいろいろいれてみた。もしかしたらきだくんがはなしているのとおなじようなことがネットにのってるかもしれない。それなら、きっとしばらくぼくのひまつぶしになるはずだ。
なまえをふやしていくほどけんさくけっかがへっていく。なんとなく、まさおみ(きだくんがはなしてるならきだくんもでてくるかなっておもっていれてみた)とさいごににゅうりょくしたら、けんさくけっかはいっこだけになった。
「あれ……?」
ふつうけんさくけっかにはけんさくしたもじがふとじになってひょうじされるのに、そのけっかにはだれのなまえもはいっていなかった。
「ええと……あま、らく? ちゃんの、おへや?」
さいごに『ちゃん』とつけているのだから、たぶんなまえなんだとおもうけどへんなじだなぁ。そうおもいながらそこをクリックしてみると、ぱっとがめんがきりかわった。
「なーんだ……」
そこにでていたのは、いわゆるチャットがめんというやつだ。サイトめぐりをしているときになんどかみかけた。みんなでたのしそうにはなしてるのを、いいなってみてた。ぼくはまだこどもだからうまくはなせないとおもっていちどもはいったことがないけど、もっとおおきくなったらいろんなひととはなしてみたい。
たぶんこのチャットのかこログにしずおさんのなまえがでたりしたからけんさくにひっかかったのかもしれない。たしか、キャッシュっていうんだっけ。
いまはだれもこのチャットつかってないみたいだけど、もしかしたらここをみはってたら、きだくんがしてくれたみたいなはなしがきけるかもしれない。そうだ、ここをおきにいりにいれておこうとおきにいりについか、をおしたとたん、がめんがうごいた。
―― 甘楽さんが入室されました ――
《こんばんはー甘楽ちゃんでっす!》
「!!」
なんてないすたいみんぐ! どきどきしながらがめんをみつめる。きっとこれからさんかしゃがふえて、みんなでいろんなはなしをするにちがいない。こういうふうにみてるだけのことをロムせんっていうんだっけ。
じっとがめんをみつめていると、あまらくさんはひとりなのにどんどんはなしだした。
《えへへー、お久しぶり、ですね!》
《元気にしてますか? きっと来てくれるって信じてました! きゃッ! 甘楽ちゃんったら健気ッ☆》
《あ、読めますか? 大丈夫ですか? ひらがなのほうがいいかな?》
《てがみをおくってから、あー! ってきづいたんですよ。そういえばかんじ、よめないかもって。かんらちゃんだいしったいですッ!》
《だからもういっかいてがみをおくろうかなっておもってたんですけど、さすがですね! ちゃんときてくれた》
なんだろう、このひと。まるでぼくにはなしかけてるみたいだ。でも、ぼくがみてるなんてわからないはずなのに。
そんなふうにおもったぼくにあてるようなめっせーじがそこにあらわれた。
《あー、もしかして、なんだこれー? へんだなー? とかおもってます? おもっちゃってます??》
《しんぱいしないでください! かんらちゃんはへんなひとじゃないですよ!》
《てがみ、よんでくれたんでしょう? きになりませんでしたか?》
てがみ。ぼくにきたてがみはあのいっつうだけだ。ねつれつならぶれたー。そこにかいてあった、あいてへのふかいあいじょうよりぼくがこころひかれたのは、おくりぬしがけいけんしたらしいどとうのじんせいだ。だってさされたり、おくじょうからおっことされたり、へんなくすりのまされたりって、なんだかすぱいえいがみたいじゃないか。
あのひとが、ここにいる?
《うーん、おかしいな、へんじがないですねー?》
《もしかしてバキュラさんがきたのかなっておもったんですけど……でも、それはないですよね!》
《だってここにくるには、てがみにかいてあったけんさくをぜんぶひらがなでしないとこれないんですし》
《ふたりっきりになるためにいろいろかんがえたんですよー?》
ばきゅらさんってだれだろう。もしかして、きだくんのこと? チャットではハンドルネームとかつかわれているし、それのことかもしれない。
どうしてこのひとはきだくんのことをしってるんだろうか。
《ほんとうはいますぐあいにいって、さらっちゃいたいんですよ!》
《でもまちます。だってせいじんしたら、いえでしてもけいさつがむりやりつれかえったりできなくなりますしね》
《せいじんするまであと……いちねん、ちょっとくらいですものね》
《それくらいならまっちゃうんですから!》
せいじん? おとなになったら、ってことかな。いみがよく、わからないや。きいたらおしえてくれるんだろうか。
きだくんがおはなししてくれたひとのなまえをしってるってことは、このひともとうじょうじんぶつなのかもしれない。かんら、ってきいたことないけど、ただのハンドルネームかもしれないし。そうだ、それに、したのなまえをおしえてもらいたい。
《ね、みえてるんでしょう?》
《ほうちぷれいってさびしいですよー! あ、ほうちぷれいとかまだわからないですかね? きゃー! ごめんなさい!》
《でも、しりたいならかんらちゃんがなんでもおしえてあげますよ》
《だってわたし、なんでもしってるじょうほうやさんなんですから!》
こくん、とのどがなった。なんでもしってるってすごい! すごい!! それならもしかして、しずおさんとけんかしているあいてもしってるかもしれない。
きだくんがしらないことも、たくさんたくさんはなしてくれるだろうか。このひとがてがみのおくりぬしなら、ぼくがここにいるりゆうをおしえてくれるかもしれない。だってあんなにあいしてるあいてのことならしらないはずがないよね。
ほんとうはずっとずっとふしぎだった。どうしてぼくにはかいだんにおちたきおくがないんだろうとか、どうしてかれんだーはぼくがしっているねんすうのずっとさきがかいてあるのかとか、なんでぼくはびょういんからでられないんだろうとか。
もしそうなら、ぼくはこれからまいばんひまをもてあまさずにすむ。でも、チャットにはいるならハンドルネームがひつようだよね。どうしようかな、ほんみょうはめだつからいやだし……そうだ、うん、めだたないなまえにしよう。
ゆっくりとT・A・R・O・Uとなまえらんににゅうりょくしてからへんかんキーをおし、まっさきにでてきたなまえにうんうんとうなづく。さいしょにでてくるってことは、よくつかわれているなまえってことだよね。
ぽち、とふるえるてでにゅうしゅつぼたんをおすと、チャットがめんに太郎と表示された。
《こんばんは! 太郎さん。ようこそひにちじょうのせかいへ!》
ひにちじょう。なんだかそれはとてもむねがわくわくすることばで、ぼくはかんらさんにあいさつのことばと、ぼくのことをどうしてしっているんですかときくためにキーボードをたたいた。
終わり