だって帝人君が悪いでしょ?






 恋愛感情を色で表すなら大半の人間は桃色と言うんじゃないだろうか。くすんだピンクでも目が痛くなるようなショッキングカラーでもなんでもありなんだろうけど、俺から見た帝人君のその色はともすれば空気に溶けてしまいそうな薄い桜色だった。その淡い色が俺と話しているときにはふわりと色を濃くしているのだから、この子が明確に恋慕を口にしなくてもすぐにわかった。何せ自分もそんな感じの色を帝人君相手に振りまいている自覚はあったので。
 とは言っても、目の前の子供よりも八年ほど長く生きているので簡単にバレるような素振りは見せてないとは思うけどさ。
 お互い同じような想いを持っているのならそこから先に進もうとするのは当然だ。だから俺は意を決して、春に咲く花のような色香を漂わせる子供に言ったんだ。

「帝人君って、俺のこと好きだよねぇ?」

 俺としては一世一代の告白、のつもりだった。できるだけ優しい声で言ったのは怖がらせないようにという気持ち半分、拒絶されたらどうしようという怖さ半分だ。だと言うのに帝人君ときたら言われた瞬間ぽかん、と間の抜けた顔をしたかと思ったら、さぁっと血の気の引いた顔を見せた。
 え、何それなんで、まさかあんな空気醸し出しておいて俺のことなんか好きじゃないとか言うつもりじゃ、と慌てた俺に気づかないまま彼は、すみませんごめんなさいもう話しかけません、と背を向けて逃げた。正確には逃げようとした。逃走できなかったのは俺が細い腕をしっかりと掴んだからだ。
 後になって本人に言われた言葉だけど、このときの俺ときたらそれはもうにやにやと追い詰められた鼠を弄ぶ猫のような顔をしていたらしい。だから自分の恋心を嘲笑われると感じ取った帝人君を逃げだそうとしたそうだ。失敬な、俺は純粋に告白しようとしただけだったのに!

「あんな顔、というか、あんな告白の仕方どうかと思いますよ」

 とは現在恋人として隣に収まってる子供の談だ。曰く、まず相手が自分を好きだと確認してから告白するのはマナーとしてどうかと思う、ということらしい。
 さほど恋愛経験もない相手にマナーを説かれる覚えはないんだけどと思いつつ、子供と違って大人は臆病なんだよと本音混じりに告げると帝人君はむむ、と眉を顰めながらも、そういうものですかと特に追求もせず納得していた。
 俺がこの子の言動の揚げ足をとって逐一追い詰めたりなんかしないように、この子も俺を問い詰めるようなことはしない。だって恋人相手にそんなひどいことできるわけないじゃないか。愛って偉大だよね。相手のためを思ってやりたいことを制限してさぁ、本当に、愛がないとできないと思うよ。
 人類への愛を振りまいていた俺にとってただただ相手の意思を尊重して、大事におもちゃなんかにしないように、自分から離れていかないように必死になる日が来るなんて思ってもみなかった。だけどそんな日も悪くない。悪くはないと思ってる。本当だ。だけどさ、だけど。

「…………」

 暖房器具はパソコンの排気熱のみ、なんていう恋人の部屋で寒さに震えながらもマウスを操作してる姿を見てたら自然と背中にくっつきたくなるものだ。後ろから抱きしめた瞬間驚いたように身体を震わせる子供はまだまだ他人との触れあいに慣れないらしい。でも嫌がることもなく、恐る恐るという調子で身体の力を抜いてもたれかかってくる体重はひどく心地良い。
 短い髪で隠れることのない耳に後ろに口づけたり、あばらの浮きそうな細い身体を抱きしめたりするとくすぐったいです、と声を潜めて笑う。やめてくださいよ、とあまり強くない拒絶に俺も喉で笑いながら肩越しに振り向いた帝人君の頬や唇にキスを落とし、徐々に浅い呼吸になっていくのを堪能しながら手を動かすのなんて恋人同士として何らおかしくない触れ合いだと思う。でも帝人君は舌を絡めたキスをしながら俺が服の下に手を入れた瞬間、うっとりと閉じていた目をぱちりと開け、叫んだ。

「む、むりぃぃぃっ!」

 叫び声と共に思い切り身体を押しのけられる。この程度の力、別に押さえ込むことくらい訳ないが大人しく押されるがまま身体を離した。

「……帝人君」

 はぁ、と、描写するならそれこそマリアナ海溝より深い深いため息を口から押し出した俺に帝人君はぶんぶんと顔と両手を左右に振った。

「無理です、本当に無理なんです勘弁してくださいっ」

 これがもし顔を引きつらせているのなら同性でそんなことできないという意思表示だとわかる。それならそれで、ややショックを受けながらも、そう、と受け入れて徐々に距離をとるだけで終わる話だ。だけど今の帝人君が浮かべている表情はかわいそうなほど真っ赤になって、それはもう首まで朱色に染まってるくらいだ。触ったらこっちが火傷しそうなほど赤くなった帝人君はそんな自分の顔の熱を冷ますように両手を頬にあてた。あ、その仕草ちょっとかわいい、なんて和んでる場合じゃない。

「帝人君はさ、俺が嫌いなの?」

「そんなわけないじゃないですか!」
 すぐさま返ってくる否定の言葉にほっとする。何でそんなことを、と怒ったように睨んでくる帝人君に曖昧に微笑んだ。
 わかってる、わかってるけどさ……でもいつもそんな態度をとられたら俺だって、まだちゃんと俺を好き? って聞きたくもなるだろう? 健気な恋心じゃないか。
 俺とこの子が付き合うようになって早一ヶ月。そろそろキスより先に進んでもおかしくないと思うんだよね。いやそろそろも何も俺としてはもっと早い段階で先に進みたかった。身体が目当てとかそんなわけじゃなく、好きな相手に触れたいと思っても当然だろ? 況してや相手は同性だ。礼儀正しく交換日記から初めてお付き合いして一ヶ月でキス、手とかつないで、抱き合うようになって、三ヶ月目で一線を越えて、なんてまだるっこしいことしてたらいつの間にか『やっぱり異性と付き合ったほうがいいみたいです』なんて言われかねないじゃないか。同性だからこそできるショートカットであるもんだろ。本音は身体からでもいいからさっさと籠絡したいんだけどね。誰とするよりも俺とするのが一番気持ちいいってこの子の身体に教え込みたい、と思うのも恋心が成せることなんだよ。……たぶん。この子以外にこんな風に思ったことないからよく知らないけど、こう思わせるのが恋なんじゃないかな。
 それができないのは俺の思い人であるこの子がどうしても先に進ませてくれないからだ。理由は最初からずっと変わらず、こうだ。
「だって、臨也さんとす、するなんてそんなの、そんなの……恥ずかしくて爆発するじゃないですか」
 人間はそんなことで爆発しないと思うよ。少なくとも俺はそんなことで死んだ人間は知らない。人間観察が趣味の無敵で素敵な情報屋さんが知らないんだからそんな事実、あるわけないだろ、と言ってみても帝人君は僕が第一症例になりかねません、ととち狂ったことを言い出す始末だ。
 初めてこれを言われたときはそれはもう、なまぬるーい視線を送ったものだ。そこまでしたくないのならもっとまともな言い訳でも言えば? とか、今更男同士で無理とか言われてもさぁ、とか、そういったことをぐるぐると考える俺に言ったのと同じ言葉を帝人君は今日も訴えてきた。

「だって、しょうがないじゃないですか! 臨也さんはかっこいいから僕の気持ちなんかわからないんです、声も外見もかっこいいなんてチートですよチート! そんな相手にみっともないところなんか見せられるはずがないでしょう?!」
「……それはどうも」

 この子に言わせると、どうもセックス=自分の嫌な部分を見せる行為となっているらしい。確かに無防備に相手に自分をさらけ出すようなことではあるけど、それ以上に愛情を確認できることなんじゃないのかな。それってつまり、相手がどんな姿を見せたとしてもそれはそれで痴態として映ると思うんだよね。例えばこの子が気持ち良くって泣いたり、ついでに鼻水が出ちゃったとしてもかわいいなと思えるだろうし、初めてだから痛いって泣いて叫んで口の端から涎とか出ちゃってもそれはそれで、うん、勃つと思うよ、俺。思うというか確実に。むしろそっちの方が……いやなんでもない。
 初めてこう言われたときは俺としてもそこまで好かれてるなんて、と目の前のこの子と同じように赤くなってしまって(帝人君に言わせるとにやにや笑って恋愛経験の少なさを馬鹿にしてるようにしか見えなかったらしいけど、この子一体どういう目で俺を見てるのかよくわかるよね。ひどい)そこから先は追求できなかった。そのまま今日まで来てしまったわけだけど、いい加減俺だってこの攻撃に耐性はついたさ。ああついたとも。顔が熱いけど、距離をとろうとする帝人君の腕を掴むことくらいはできる。

「あのさぁ、帝人君。毎回そう言うけど、俺だってそろそろ我慢の限界なんだけど?」
「そ、そんなこと言われても…………」

 俯いた帝人君は下からそろりと俺の顔を見上げ、すぐに恥じらうようにまた下を向いてしまった。掴んだ腕が震えてるけど今日ばかりは引く気はない。細い身体引き寄せ、腕の中に閉じ込めてからぎゅ、と目を瞑る眉間にキスをした。

「だってキスは大丈夫だろ?」

 ちゅ、と音をたてながら額や頬に唇を押しつける。ゆっくりとあげられた幼い顔は唇を触れあわせるのを待ちわびるような、どこか媚びるような目をしていた。こんな顔をするのにキスより先はダメ、なんて拷問じゃないだろうか。
 顔を傾けて口づけを交わそうとすると帝人君はまた、でも、と呟いた。しょうがないので至近距離で目を合わせたまま言葉の続きを待つ。

「キス、くらいだったら、その、僕だってちゃんとできるんです。でもそこから先は取り繕う余裕なんかなさそうで……」

 その言葉に思わずくすくすと笑ってしまった。それに不満そうに深い藍色の目が睨んでくる。
 だってそんな余裕、初めてのこの子がなくて当然だ。むしろあったら誰とこんなことをして取り繕えるくらい経験豊かになったのか事細かに問い詰めないといけない。

「いいんだよ、それで。むしろ俺はそういう君が見たいんだか、」
「ダメです!」

 なだめるように言った俺の言葉に反論するように強く帝人君が叫ぶ。そのときに勢い余ったのか前のめりになり、ゴン、と額同士がぶつかった。地味に痛いんだけど、帝人君はそれどころじゃないらしく力強く言葉を続けた。

「きっと今まで臨也さんはきれいな人しか相手にしたことがないからわからないと思うんですけど、並の容姿の人間の余裕のないときの表情ってそれはもう、見るに堪えないんですよ。大声で喘ぐ声も耳障りだし、こう、するときの体勢って一つじゃないじゃないですか。相手の上に跨がったりとかそういう体位もありますし。つまりそれって、顔を見ようとすると下から見上げたみたいな状態になるというか……人間下から見る顔が鑑賞に堪えられるかどうかで美形か否か決まると思うんですよね。僕、自分の顔を鏡で下から見たことがあるんですけどちょっと無理かなぁって思、」
「待って、待て待て待て」

 つらつらと独自の理論を繰り広げる帝人君に待ったをかける。何ですか、ときょとんと首を傾げる仕草は小動物じみてて愛らしいけど言ってる内容はとんでもないことばかりだ。
 眉間をぐ、っと抑えてから喉奥から声を振り絞る。

「あのさ、その言い方だと、帝人君……もしかして、そんな風に幻滅したことでもあるの?」

 どう聞いてもそれは自分の体験談から出た言葉だとしか思えない。そう思って尋ねた問いに帝人君は、そうですけど、と何を言うんだとばかりにあっさりと肯定した。

「え、でもさ、君誰かと付き合ったことはないんだよね?」
「はぁ。付き合ったことはなくても経験できますよね?」

 それはそうだ。いやでも、君ってもっとまじめな付き合いをする子だと思ってたんだけど。昨今の十代の初体験年齢がどんどん下がってきているとはよくニュースで取りざたされていたけど、よもや帝人君までそうだったなんて予想外にもほどがある。この子が俺の想像を越えることをしてくれるのは楽しいと思って見てるけど、これはちょっと。

「ちなみに、初体験はどんな具合に……?」
「中学校の先輩だったんですけど、屋上で話をしてる内に気づいたらのしかかられて」
「……相手は女の子だよね?」
「当たり前じゃないですか!」

 当たり前っていうけど、君が今付き合ってる俺は男なんだよ。胸の内で呟いた言葉なんて知るわけもないのに帝人君は頬を染めて、男の人なんて臨也さん以外考えられないです、と呟いた。うん、その答えには花丸をあげたいんだけど今提議すべき問題はそこじゃない。
「うやむやの内に一回目が終わって、二回目もなんだか成り行きでしちゃったんですけど」

 どんな成り行きだよ。いや男なら据え膳は食べるけどさぁ。

「基本騎乗位、とかで……下から見上げたときに見た先輩の顔が、あれで……」

 ごにょごにょ、と言葉を濁しているがあまりいい思い出になるような容姿ではなかったらしい。フォローのように、普通に話してるときはかわいいなって思ったんですよ、でもつけまつげとれちゃった、とか真っ最中に言われたらとかぶつぶつぼやいてる姿を見るに、どうやらそのかわいい顔は作り物だったらしい。女の子のかわいいは作れるってよく言うからそれは別にいいと思うのだけど、なるほどねぇ。
 初体験があまりいいものでなかった帝人君としては、もし自分がその先輩のような立場になってしまうのだとしたらそれはもう、いろいろと考えてしまうことだろう。ナチュラルに自分が女役になることを考えてるあたり自分のことがよくわかってるなとは思うよ。
 俺の知らないところでとっくの昔に大人になっていたらしいこの子を今更責めてもしょうがない。童貞を返してもらってこいと言っても取り戻せるものじゃないし、こんなトラウマがあるなら今後そう簡単に誰かを抱こうなんて気にはならないだろうと前向きに考えることにしよう。
 それよりも、だ。

「帝人君の言い分は分かったけど、それじゃあ今後もずっと俺とする気はないわけ?」
「…………」

 ぐ、と言葉に詰まってしまったらしい帝人君を緩い力で抱きしめると、おずおずと俺の方にすり寄ってきた。

「いずれ、そのうちに……」
「そのうちっていつ?」

 いつでしょう、なんて返されても俺だって困る。この子ほど若いわけじゃないけど俺だって延々おあずけを食わされて我慢してやるほど枯れてもいないしね。 俺の身体にもたれかかったまま帝人君は小さな頭で色々考え込んでいるようだけど、それを見ながらわざとらしく深いため息をこぼしてやった。それにびくりと身体を震わせる。

「あのさぁ、別に俺は君のこと身体目当てとか、そんなおもしろいこと言うつもりはないよ? そもそも男同士でするなんて不自然極まりないしさ」
「…………はい」

 その不自然きわまりないことをしたいと思うくらいこの子のことが好きなんだけどね。本当、恋って頭をおかしくする病気だ。

「だけど付き合ってこれだけ経つのにキスだけ、なんて奥ゆかしいにもほどがあるじゃないか。これが普通のカップルだったら浮気されてもおかしくないと思わない?」

 うわき、とぽつりと帝人君が呟いたことに口の端を上げる。下を向いたままのこの子には俺がそんな顔をしてるなんてわからないだろう。
 あんまり焦らすようなら、身体の熱を冷ますだけの付き合いをしちゃうかもしれないよ、と遠回しに脅してるみたいなものだ。みたい、ではなく実際脅してるんだけどさ。
 この子のことが大事だから今日まではずっとこの子の意思を尊重してきたけど、でも恋人同士ってお互いを思い合ってこそだろ? ちょっとくらいこの子から譲歩してくれても、と思うのは俺だけの我が儘だとは思わない。好きだから繋がりたいっておかしな感情じゃないはずだ。

「どうしようか、帝人君」

 声がどうしようもなく笑みを帯びてしまっているのは真剣に悩んでいるらしい姿が嬉しいからだ。俺と触れ合うのが恥ずかしいと言いながらもこうやって浮気はされたくないと悩む恋人の姿を見て喜ばないわけがない。

「臨也さん」

 なぁに、と自分でもひどく甘やかすような声が出た。優しくしてくださいね、なんてかわいらしい誘い文句の一つでも出るかなぁと思った俺の期待を大きく裏切って、帝人君はがし、と俺の両手を握った。

「録画、録画してくださいね!」
「……んー?」
「録画ですよ、写真じゃなくて動画でお願いします。あ、ちゃんと音がきれいに入るやつにしてくださいね!」

 何言ってるんだこの子。

「僕としては、できれば臨也さんが相手にする女の人にカメラを持ってもらいたいんですけどそういうのって可能ですかね? あ、それとその女の人には悪いんですけど、動画をもらったら女の人の声は消しちゃいますね? だって臨也さんだけ見ていたいし、臨也さんの声だけで僕は十分ですから」
「あぁ、そう?」

 帝人君の話の展開についていけず返答が素っ気ないものになるが、それも当然じゃないかな。
 目の前の恋人は目をきらきらさせながら、ひどく楽しそうに臨也さんってどんな風に女の人を抱くのか興味あったんですよね、でも僕男だからそんなの一生見れないじゃないですか、だから楽しみだなぁと言っている。その顔に悋気心なんて欠片も見えないし、俺を困らせてやろうなんて色もない。
 本気で俺とこの子の知らない誰かが致すことを楽しみにしている顔だった。

「帝人君、あのさ」
「はい?」

 目を輝かせたまま視線を合わせる彼に、頬を引きつらせながら疑問を投げかけた。

「……君は俺が浮気してもいいの?」
「? 浮気でしょう? 本気は僕だけなんですよね? それなら何の問題もないと思いますけど」

 問題ないのか。え、問題ないの、本当に? これ本気で言ってるのかな、この子。だって俺だったらこの子が他の誰かとするなんて絶対に嫌だ。許せるわけがない。さっき聞いた過去の経験だっていい気分にならなかったのに。
 もしかして俺が思ってるよりこの子は俺のことが好きじゃないんだろうか。そう考えるとじっとりとみぞおちのあたりが重くなったように感じた。どうしよう、ちょっと泣きそうだ。
 ふうん、と気のない返事をしながらも頭の中ではひどい、帝人君ひどいと詰る言葉がめぐる。その言葉を口から押し出すよりも先に、ぎゅう、と細い身体を抱きしめた。

「臨也さん?」

 不思議そうに問いかける声は罪悪感なんて微塵も見えない。ひどいなぁ、と呟いた声はきちんとこの子の耳には届かなかったらしく、何ですか、聞こえなかったですと邪気無く聞き返された。

「…………」
「い、たい! 痛いです、臨也さん!」

 無意識に腕に込める力を強めてしまったらしく、帝人君が不満そうに叫ぶ。その苦情を聞いて腕の力を緩めてやったのは愛情が大半、今からすることへの罪悪感が少しあったからだ。

「ねぇ、帝人君」
「はい?」

 俺の胸から顔をあげた彼の頬にキスをし、にっこりと擬音がつきそうな、優しそうに見える笑みを浮かべた。帝人君がそれに愛想笑いのようなものを返してくる。ぐ、と身体を離して距離をとろうとするから、それは無視して腕の力は緩めなかった。

「提案なんだけどさぁ」
「は、はい?」
「帝人君は俺にみっともない顔を見せたくないんだよね?」
「そうです、その通りです」

 ぐぐぐ、と帝人君の腕の力が強くなるけどこの子が俺に腕力で勝てるはずもない。いきなり手を離したら後ろに転がっていきそうだな、と思ったけど、この狭い四畳半の部屋でそんなことをしたら頭を打ってしまうからやめておこう。

「じゃあさ」

 帝人君の腕の力を無視して顔を近づける。ぱちりと一度瞬きをした後帝人君の頬に朱色が乗った。その反応に気をよくしながら、唇に音をたてるだけのキスをする。

「そんな顔を見せないように、練習したらいいんじゃないかな?」
「れ、練習?」
「ほら、無防備な顔を見せるのが嫌って言っただろ。それってあんまり経験がないからされることになれなくて必死になっちゃうせいでそうなると思うんだよね。それなら慣れればいいんだよ。慣れるくらいしたらみっともない顔見せずに済むだろ? ああ大丈夫、帝人君がどんな顔をしても笑ったりなんかしないさ。でもそうだね、そんなに不安になるならちょっとどうかなぁって顔したら教えてあげる。そうしたら君も気を引き締めるからそんな顔を見せずに済むだろ?」

 反論を許さずべらべらと言葉を垂れ流す。この子がどんな顔しようがそれに眉を顰めたり、馬鹿にしたりなんかしないけどこう言っておいたほうが安心するだろうなとは思った。逆に言えば、俺が言及しない限りはこの子は快感に負けたはしたない表情を見せてくれるだろう。

「え、えぇぇ?」

 俺の提案が気に入らないとばかりに帝人君は不満そうな声をあげるけど、もう引いてなんかやるものか。絶対に決行してやる。
 笑みを浮かべながら細い身体を押し倒すと、いつものように待ったをかけてきたがそれを唇で塞ぐ。むご、とか、ふご、とか色気の無い声を聞きながら衣服を剥ごうとすると舌に歯を立てられた。

「いっ……」
「ご、ごめんなさいっ!」

 咄嗟に顔を離してしまう程度には痛みを伴ったそれに自然帝人君に対する目に冷たいものが混じってしまう。だってそうだろ、普通恋人の舌に歯なんか立てられるものだろうか。俺なら絶対しな……いとは断言できないけど、少なくともこんな状況ではしない。
 俺に組み敷かれた帝人君は両手で絶対に脱がされるものかとばかりにシャツを握りしめていた。き、と挑むように青みがかった目が睨んでくる。

「…………」

 なんかもう、面倒くさいな。いっそ縛って無理矢理してしまった方が早い気がしてきた。そもそもなんで俺はここまでされてこの子の頼みを聞いているんだろうか。
 帝人君にとって俺って何? と聞いたらいっそ楽になれるような気がする。あまりにも女々しくてそんなこと口に出せないけどさ。俺だって、この子が俺に憧れてくれてることはよくよくわかってるからこの子の望む折原臨也像の維持には努めていてあげたいけどそろそろ限界だ。
 そんな陰鬱な感情を込めてはぁ、とため息を吐いたのは自分に対してだ。どうにもそこまで一瞬とは言え考えてしまうということは俺はわりと煮詰まってるらしい。こんな子供相手に何をやってるんだろうと我ながら呆れるけど、それが恋なのだから仕方ない。
 しばらく距離をとれば俺も落ち着けるだろう。そう思って立ち上がろうとすると、ぐい、と服を引っ張られた。

「……何」

 責めたりしないようにと意識して出した声は自分が思っているよりも素っ気なく響いた。あ、これはまずいなと思ったけど今更撤回できるはずもない。もう何でもいいから早くこの場から去って、一人で冷静になる時間が欲しいのに帝人君は手を離してくれなかった。

「あ、あの、」

 そこから先の言葉は何も聞こえない。言うことがないなら離してくれる? と問いかけた言葉に帝人君が慌てたように口を開いた。

「ごめんなさい、その……ごめん、なさい……」
「…………」

 最低だな、と自分でも思う。八つも年下の相手にこんな風に謝らせるなんてどうかしてるとはわかってるけど、それでも何が悪いのかわかってんの、と思わず言ってしまった。
 ぴく、と帝人君の指が震える。あの、ええと、と困ったように言葉を探して結局、こう言った。

「い、痛い思いをさせて、ごめんなさい?」

 何で疑問系なんだよ。それに謝るポイントが全然違うし。
 この子は俺が怒っている理由がよくわからないまま、それでも俺の機嫌を損ねたくなくて謝ってきたらしい。 いつもなら、普段くらい余裕があれば俺も悪かったね、ごめんと素直に謝れたかもしれない。あくまで可能性の話であって実際そうしたかどうかわからないけどさ。仮定はあくまで仮定だし。それに今日の俺はまったくと言っていいほど機嫌がよろしくない。

「それで?」

 俺の声に帝人君は、え? と呟いた。

「口先だけで謝ることなんて幼稚園児でもできることだけど?」

 我ながら意地の悪いことを言ってるなぁ、とは思った。それと同時に、帝人君がどうするのか興味があった。
 何ですかそれ、と怒るだろうか。いっそ怒って詰ってくれてもいいのだけどと思う俺にこの子が見せたのは眉尻を下げて、心底困った顔だった。
 ……何、その顔。

「どうしたらいいんですか?」
「さあ。自分で考えたら?」

 ダメだ、この子のこの顔見てたら何かこう、どんどんよくない方向に意識が傾いてしまう。せっかく両思いになったのだから無理強いなんてことはしたくないし、嫌われるようなことも控えるべきだろう。あれ、でも帝人君はどこまでしたら俺のこと嫌いになるんだろう。なんとなくそれを試したい気も、いやダメだろそれはと浮かぶ不埒な思考を片っ端からなんとか潰そうとしているのに帝人君は下を向いて、きゅ、と唇を噛むとぽつりと呟いた。

「怒らないでくださいね?」
「……何を」
「その、臨也さんが怒ってるのって、僕が……嫌がるからですか」
「…………」

 結局のところ、それが結論にはなるだろう。その他諸々といった事情はあるけどさ。 身体だけが目当てじゃないし、ゆっくりこの子のペースに合わせてあげるのも愛情表現だとわかってるよ。だから丸い頭を上からぽん、ぽんと緩い力で撫でるように叩いた。ぱ、と驚いたように帝人君が顔を上げたから、それに苦笑を返す。

「いいよ。君には君のペースがあるってことくらいわかってるさ」

 ただし俺には俺のペースがあるんだけどね。
 もう少しだけ待ってあげよう。その結果帝人君がそれでも無理だって言うのであればこちらのペースに合わせてもらうよう交渉するしかない。交渉っていうのは最終的にお互いの妥協点を見つけるためにすることだけど、俺は妥協するつもりはないからそうなると俺の都合のいいように話が進むよう誘導させてもらうけどね。
 あと一週間くらい待ってみてダメだったら実行しようと考える俺の思惑なんか知らない帝人君は撫でられた場所を片手でさすると、いきなり立ち上がった。

「どうかした?」

 俺の問いかけを無視するように帝人君はコートを着込み、懐に携帯をいれパソコンの電源を切ると俺の手を握る。その手に引っ張られるまま立ち上がると玄関へと向かった(とは言っても数歩でつく距離なんだけどさ)。
 ドアを開けるとひんやりとした風が舞い込む。一瞬外に出たくない、とばかりに眉間に皺を寄せたけど、靴を履いた帝人君はぐいぐいと俺を引っ張りながら外へ出た。慌てて靴をつっかけた俺の足下をちらりと見てから帝人君が鍵を閉める。こんなおんぼろアパートのドアなんて鍵をかける意味があるのかなぁなんて思うけど、それは今更な話だ。
 鍵をコートにしまった帝人君はまた俺の手を握ってずんずんと歩き出す。帝人君が鍵を閉めている間に靴はちゃんと履いていたから問題なく歩けるけど、一体どこに連れていく気だろうと思う俺に帝人君は前を向いたまま口を開いた。

「僕の部屋、寒いんです」

 そんなことはわざわざ言われなくても知ってる。だから何、と尋ねた言葉を無視するように帝人君は言葉を続けた。

「服を脱いだままだったら絶対風邪をひくし、そもそも壁も床も薄いから中の音は筒抜けなんですよ」
「だろうねぇ」

 特に夜だと同じ階の人間が階段を上がってくる音もよく聞こえるくらいだ。
 帝人君はだから、その、と言葉を選びながらも足を止めることはなかった。

「臨也さんの家のほうがいいと思うんです」
「何が?」
「何がって…………」

 ぴたりと足を止めると、彼はうう、とうめき声をあげて俺の方を恨みがましそうに振り返った。その目はわかってるくせに言わせるのかとばかりに俺を詰っていたがあまりに急展開すぎてよくわからない。何、と首を傾げてみせるとまわりときょろりと見回し、人がいないのを確認してから、帝人君は潜めた声で言った。

「れ、練習は臨也さんの家でしましょう」
「……ん?」

 今、なんて言ったこの子、と傾げた首を更に傾げそうになるのを耐えていると帝人君は泣きそうな顔で俺を見上げ、だから、と言葉を重ねる。

「僕がどんな顔してても、嫌いにならないでくださいね?」

 俺が帝人君を嫌いになれるわけがないのに何を心配しているんだろうか。いやそれよりもこの子は俺の家に来て何をすると言っているんだろうか。練習って、それってつまり、と考えていくと思わず口元に手をあててしまう。
 この子はこの子なりに、譲歩しようと言っているらしい。俺を怒らせたくないからという理由はあるのだろうけど、それでもそれはそれで俺のことを慮って言ってくれた言葉だ。俺がこの子の意思を尊重しようとしたように。

「臨也さん?」

 俺の頬は赤くなってないだろうか。寒いからだよ、なんて白々しい言い訳が通るわけもないけど、でもさぁ、好きな相手にわかりやすく好意を見せつけられたら誰だってこうなるよね。

「なんでもない」

 自分の中の動揺を悟られないようにそう言って帝人君の背中を押して歩くよう促す。
 さっきまで腹の中にくすぶっていた苛立ちが嘘のように消えていた。我ながら単純だな、と思う。こんな子供の言葉一つで一喜一憂するなんていつから俺はこんなお手軽な人間になったのか。でも悪い気はしない。
 俺の顔色をうかがうように見上げてくる目に曖昧に笑い返すことくらいしかできないくらいには動揺していたけど、でも心はひどく浮き立っていた。
 何だ、単に大事にされているかどうか確認したかっただけか俺は、と呆れてしまうけど恋にとち狂った人間なんてきっとみんなそんなもんだ。
 この子はこの子なりに俺に嫌われたくないと必死なら、それならこの子の歩調に合わせてあげよう。別に、無理して俺に合わせなくてもいい。俺の家についたら一緒にDVDでも見て、ゆっくりと過ごすのも悪くない。





 なんて言っておきながらあれなのだけど、据え膳を食わないのはなんとやら、という言葉もあるわけで。
 だ俺の家についた帝人君たらそれはもう必死だった。テレビを見ようと言っても、もうしたくないんですか、僕じゃやっぱりダメですか、とか言い出すからなんかもう、ねぇ。しょうがないよねだって帝人君がこう言うんだし、と誰に言うでもない言い訳をしつつ、寝室で丁寧に大切にいただかせてもらった。
 最初は緊張してがちがちになっていた帝人君が徐々に身体の力を抜いて、最終的に俺にすがりついてくれたときにはもう可愛くて可愛くて、これからもずっと大事にしよう、なんて思ったものだ。
 翌朝先に目が覚めたときにも、あれだけ声をあげさせたから喉が枯れてるだろうと思ってホットミルクを用意して目を覚ますのを待っていた。
 恥ずかしがってまともに目を合わせてくれないかもしれない。それなら優しく頭を撫でて、甘い声でご機嫌をとってあげよう。
 そう考えていたのに起きてミルクを一息に飲み干した帝人君の目は据わっていた。

「臨也さん、もしかして男相手に経験があるんじゃないですか?」

 え、何この質問、と戸惑う俺に彼は、僕と同じ側の経験、あるんじゃないですかと問いを重ねた。
 恋人に嘘を吐くのもあれだし、帝人君は自分の初体験を教えてくれたので(本人は隠す必要性なんてまったくないと思ってたらしいけど)正直に、あるよ、と答えた。帝人君はその答えにひどくショックを受けたらしく、目を丸くして俯いてしまった。

「帝人君……?」

 もしかして俺にネコの経験があるのがそんなに嫌だったんだろうか。でもその経験があったからこそ、昨晩あれだけ帝人君を気持ち良くしてあげることもできたわけで、と足りなかった言葉を補うよりも先に帝人君は身体を震わせながらぽつりと、ずるい、と呟いた。

「ずるいってな、」
「ずるいですよ! そんなの、ひどいじゃないですか!」

 ずるいって何が、と問おうとした俺の声に帝人君の叫び声が被さる。勢いよく顔を上げた帝人君の目は少し潤んでいた。擦れた喉を酷使するような声をあげないほうが、という俺の声を無視して帝人君は言い募る。

「だって僕は臨也さんのそんな顔、見たこと無いんですよ? どうして他の男の人に先に見せてるんですか? 臨也さん、初恋が僕だって言ってくれたじゃないですか!」

 はい言いました、そういう恥ずかしいことも言いました。真っ最中って頭のねじが二本くらいぶっ飛ぶよね。帝人君もそれくらいぶっ飛んでそうだからうっかり言っちゃったんだけど、ちゃんと聞いていたのか。恥ずかしいなぁもう、と頭を抱えるたくなっている俺のシャツの胸ぐらを掴むと帝人君がぶんぶん揺さぶってくる。非力なこの子だから大したことはないけど怒ってることはよくわかる仕草だった。

「ずるい、誰なんですか? その初めての相手!」
「覚えてないよ、そんなの」
「嘘です!」
「本当だって。そんなどうでもいい相手のことなんて一々覚えていられるわけないだろ?」

 なんとなく興味本位でしちゃったことだから覚えてないのも当然だ。それなのに帝人君は不満そうにうなり声を上げてくる。

「返してもらってきてください」
「……はい?」
「いますぐ! 臨也さんの初めてを返してもらってきてください!」
「え、無理だろそれ」
「無理じゃないです! いえ、無理だって言うならその相手を教えてください、その人の記憶を消してきます!」

 人間の記憶を消すってどうやって。あ、いやいい、だいたいわかる。ありきたりなところで頭を殴るってところだけど、この子のこの勢いだとそれ以上の犯罪くらいやりかねない。

「記憶を消しても事実は消えないんじゃない?」
「大丈夫です、臨也さんとその人の記憶からなくなればなくなったのと同じです」

 俺の記憶もかよ、と突っ込めない勢いがある。ダメだ、この目は本気の目だ。
 落ち着け、と両肩をぽんぽんと叩いてみたが帝人君の勢いは収まらない。彼に言わせると、自分がこちら側に甘んじている以上一生見れない俺の顔を知っている他人がいることが気に入らないらしい。

「臨也さんは僕の恋人でしょう? それなのにどうして僕の知らない顔を他人が知ってるんですか、不公平です」
「…………」

 たぶん自分でも何を言っているのかわかってないような気はする。でもなかなかかわいいことを言ってるなぁ、とは思った。
 こんな風に独占欲をあらわにされて悪い気なんかするはずもなく、思わずぎゅう、と抱きしめてしまう。 腕の中で誤魔化さないでください、と吠えるこの子に相手は一人だけじゃないと言ったらどんな顔をするだろうか。もしかして怒って臨也さんを殺して僕も死ぬ、くらい言い出すかな。それはそれでかなり魅力的だなぁと思いながらも、まだこの子を死なせるつもりはないので細い身体に体重をかけ、ベッドの上に押し倒した。
 何をするんだとばたばた暴れる身体を組み敷きながら上機嫌であることを隠しもせず笑みを浮かべる。

「ねぇ、帝人君? そんなに君の知らない俺を誰かが知ってることが気に入らない?」
「当たり前ですっ」

 黒に近い藍色の目が浮かべる悋気心に満足しながら、それならさ、と囁きながら額を撫で、髪の生え際に指を這わせた。

「教えてあげようか、そっち側の俺も」
「……へ?」

 ぶんぶんと腕を振り回してた帝人君は俺の言葉に、ぽかん、とした顔を見せるので思わず噴き出してしまう。そのせいで帝人君はからかわれたのだと思ったらしく、き、と視線を強くするものだからもっと笑いたくなってしまう。

「からかわないでくださ、」
「からかってないけど?」

 上にのし掛かったまま無防備に肌をさらす子供の目元にキスをする。ぴく、とそんなささやかな触れ合いにすら恥じらうように震える子供の耳元に口を寄せた。

「いいよ、帝人君になら全部あげる」

 恋人に請われるのなら全部あげたいと思うものだろう。請うより請われるほうがやはり気分がいい。
 伏せていた上半身を上げて細い身体に跨がる。帝人君は相変わらず惚けたような顔をしていたが俺がシャツを脱ぐと、こくん、と喉を鳴らした。

「い、臨也さん……?」
「ただし」

 期待に震える声に笑みを向けてやりながら彼の両手を片手で握り、頭上に縫い止める。意識を落とす直前にもされたのと同じ仕草に身構えてしまうのはしょうがないことだと思うよ。
 そうか、これからこの子はこうやって俺にされることをちょっとずつ覚えていくのかと思うと嬉しくて楽しくてしょうがない。

「俺さぁ、痛いの嫌なんだよね」

 だからちゃんと後ろだけで達けるようになるくらいセックスに慣れたらさせてあげる、と優しい声音で囁いた言葉に帝人君は顔を引きつらせた。

「む、むりぃぃぃっ!」
「大丈夫大丈夫、最初俺とするのも無理って言ってたけどちゃんとできただろ?」
「そっちは無理ですって! 本当に死んじゃいますっ」
「死んじゃうとかやらしいねぇ、帝人君」

 そんな話はしていない、と騒ぐ口をキスで封じ込め、なんとか俺の下から逃れようとする身体に手を這わせる。
 どこをどうすればこの子の身体の力が抜けるかなんてもう全部知ってる。
 ぎゃあぎゃあ騒ぐ声が嬌声に代わり、泣き声混じりの、ゆるして、もうやめてたすけて、と呂律の回らなくなった声もすべて愛しいなと思うのはやはり愛が成せることなんだよねぇなんてことを緩んだ口元と同じくらい緩んだ頭の片隅で思った。













おわり