目隠し鬼サンプル02










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 池袋のマンションには戻らず新宿の事務所に足を運んだのは当然、今持っているこれを帝人君の目に触れさせないためだ。俺の気持ちを信じていないあの子に見せるには刺激が強すぎるし、何より恋人の痴態なんてまず一人でゆっくりと見たいじゃないか。
 手に入れた他のカタログにはちらりとだけ目を通したけど、どれもとても表になんか出せないような仕上がりだった。帝人君が捕まっていた三日間のDVDもそれはそれで楽しかったのだけど、あの子がきちんとカメラを認識している映像はきっとまた違うものがあるにちがいない。
 浮き立つ気持ちをそのままにヘッドフォンをつけてからパソコンの中にディスクをいれる。ディスクの読み取りが行われた後、ぱ、とディスプレイに動画再生画面が表示された。最初に渡されたDVDよりも鮮やかな画質が最初に映した姿に自然と口元がほころぶ。
 画面の向こう側には帝人君が座っていた。豪奢な革張りに見えるソファは一見高そうだけど、座っている彼が何も着ていないせいかむしろチープな、そういったいかがわしい用途のために作られたものに見える。
 映像は鮮明だから帝人君が浅く呼吸を繰り返している様子も、普段よりも随分顔を紅潮させているのもよくわかった。ただ目だけは目隠しをされているせいで涙をにじませているのかどうかわからない。その姿に小さく溜め息を吐いた。
 この高画質からして確かにこれが帝人君を人形として売ろうとしたときの販促用DVDであることは間違いないようだが、どうやら視界を遮ったままの状態で撮影したようだ。
 他の人形達とは違って帝人君はいまいち言うことを聞かなかったのか、それともこうやって微妙に顔を隠しているほうがそそるものがあると判断されたのかわからない。でももし彼が『自分が録画した映像がある』と認識していれば、あの矜持の高い子はなんとしてもそれが流出しないように手を尽くそうとしただろうに、と思うと少しだけテンションが下がった。こんなのがあることを知らないなら一緒に見れるようになるのはまだだいぶ先かもしれないな。
 とは言っても想い人の貴重なアダルトビデオ紛いの映像だ。今更停止ボタンなんて押すわけが無い。
 カメラは他の商品紹介の映像と同じく位置を固定しているらしい。ズームすることがないのは詳細を知りたいのならこの人形を買えという売り込みも兼ねているからだろう。中々商魂たくましいその映像の中で帝人君がわずかに身体を震わせた。
『ん、う……』
 ヘッドフォンから押し殺したような声が聞こえる。
 手も足も拘束されていないからその場から立ち上がって逃げだすことも、目隠しを外すこともできそうなものだけど、カメラに映っていないだけで回りに人間がいるんだろう。帝人君の真上から降り注ぐスポットライトは光が強すぎてソファとその上に座っているこの子しか見せていないけどさ。
 大きめのシングルソファに腰掛けた帝人君は何度か爪で肘置きを引っ掻いた。何かに耐えるようなその仕草の意味なんて、勃ちあがっている性器を見れば一目瞭然だ。自分で慰めることをしないのはしたくないから、というよりもしないように言い含められているからかな。だってあの子の身体に見合った性器は先端からとろとろと先走りを垂れ流してるくらい、早く射精したいと訴えているのだし。
 なんとかその快感を逃がそうとでもしているのか帝人君が足を擦り合わせる。まさかずっとこうやって身の内に暴れ回る快感に耐える映像だけで終わるのだろうかと心配になった。もし俺があの子の身体をまったく知らない、ただ見てるだけで満足していたときならいざ知らず、今はそんな程度じゃ物足りない。それにせっかくの販促用DVDならこの子を買おうと思うくらいの映像じゃないといけないんじゃないだろうか。
『……っ』
 そう思ってると、画面の向こうで帝人君が息を飲んだ。目隠しをされている頭が弱く左右に振れる。薄く開いた唇からは、やだ、と呟く声が聞こえた。
 一体何に対して拒絶の言葉を吐いたんだろうかと首を傾げ、じっと画面を見ている内に気付いた。確認するためにキーボードを操作し自分の手でズームインする。
 帝人君の頭、正確には右耳に小さな何かがつけられていた。おそらくイヤホンだ。あれから何か指示をされているらしい。
 専用の機器を使えば声だけでその人間を特定することができる。だからこういった、同じ穴の狢にしか渡さないとは言え多数の人間に渡すものとして作られている映像では商品以外の声が入らないようにしているんだろう。それに売り物でもなんでもない人間の声なんて見てるこっちとしては聞きたいと思えるようなものじゃない。初めてあの店に行ったときにも思ったけど、購入意欲をくすぐるのが巧みだ。今日の対応があそこまでお粗末でなければ上客の紹介くらいしても良かったのに。
 帝人君は何を言われているのかわからないけどしばらくは指示を拒絶しているようだった。そんなことをしても無意味だろうに悪足掻きをしている姿は微笑ましいものがある。
『ひ……っ、く、ふ……』
 俯いたまま泣き出してしまったのか、しゃくりをあげる声が聞こえる。その顔が見たいなと思っても無理矢理顔をあげさせるような手はなかった。この映像が映している場にいたかったな、なんて考えてもどうしようもないことが頭をよぎる。
 どうやら観念したらしい帝人君は何度か鼻をすすった後にソファに浅く座り直し、緩慢な仕草で両脚を広げた。そうするとよりはしたなく勃ちあがっている性器が見える。でもこの子が異物を受け入れる場所はちょっとわかりにくい。どうせならその膝置きに両脚を乗せるくらいしたらいいのに、と思ったのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。帝人君は一瞬硬直した後、泣き声とも啼き声とも表現できる声をあげながら肉付きの悪い足をさらに広げ、手を乗せていた場所に置いてみせた。ちょうどM字開脚になっているその体勢は真正面のカメラに余すことなく帝人君の全身を映す。さっきより浅く座ったおかげで真っ赤になっている顔も、男なのに性感帯となっている乳首も、性器として作り替えられた後ろの窄まりも全部ね。
 上気した身体を隠すこともできないまま帝人君は何度か唇を噛みしめた後に震える唇を開いた。
『み……て、くださ、い』
 消え入りそうな細い声だった。他の人形達のような甘く媚びるような、相手の劣情を誘えるものでは到底ないその声と共に帝人君の指がゆっくりと膝置きから下に行き、尻肉を割り開く。
 そう言えと、そうやって男を誘う仕草をしろと指示されていることはわかっている。それでもその媚態は中々に下半身を刺激するものだった。これ、あの子がちゃんとカメラを見た状態でやっていたらもっと効果があっただろう。今度やらせてみようか。自分で慰める度に何かを食むように動くそこを広げさせて、そこに欲しいのだと誘う仕草はきっとこうやって画面越しに見るよりもいやらしいに違いない。
 どうやったらしてくれるかな。たぶん普通に言ってもやってくれないだろうし、ああ本当に、この映像はどうして目隠しをしてるんだろう。あの子を売るというのならあのブルーブラックの目が快感に歪む様が一番のセールスポイントになると断言できるのに。
 は、は、と浅い呼吸を繰り返していた帝人君の手がぴく、と震える。
『い……や、うぅ、あ』
 嫌だと言おうとしたのかもしれない言葉は結局形にならず、自分を慰めるように細い指が後孔の縁を怖々となぞった。性器からだらだらと先走りが流れてるし、この映像が撮られるまでに散々と慣らされていたらしく、ぽってりと腫れたようになっているそこは帝人君が押しつけた自身の中指をあっさりとくわえ込んだ。
『ひ、ん……んっ』
 肘置きにかけられた足の爪先がきゅっと丸まる。自分の指とは言え、排泄孔ではなく性器となっているそこはそんな些細な刺激だけでも気持ちがいいようだ。嫌がっていたわりに帝人君はずぶずぶと指を奥まで押し込んでしまう。
『は、あ、あっ、んぅ』
 指が小刻みに動く。後ろだけの刺激で快感に震える腰の動きが卑猥だ。もしかしたら何か薬でも飲まされているのかもしれないというくらいの乱れぷりに口角が上がる。
 イヤホンから言われたのか違うのか判断がつかないが、帝人君はさらに中に入れる指をもう一本増やして見せた。中の媚肉を見せつけるように指を広げたのはそう指示されてだと思いたいんだけど、熱心に嬌声をあげながら弄ってるからそれが気持ちよくてしてるのかもしれない。この間あの子の自慰を手伝ってあげたときに指を抜き差しするよりも中を掻き回してほしいと言っていたからああするのがお気に入りなんだろう。覚えておいてあげよう。
 このまま自分の指で慰めて絶頂を迎えさせるんだろうかと画面を見ていると、唐突に男の腕が出てきた。その手に握られているのはローションがたっぷりと塗されたバイブで、目隠しをされている帝人君は目の前にあるものに気付かず喘いでる。その倒錯的な絵面は男の手が帝人君の腕を掴んだことで終わった。
『ひっ……』
 いきなり触られたことに驚いたらしい声が響く。
 いや、なに、と怯えた声が舌っ足らずな音だったのは快感のせいかな。呂律がまわらなくなるくらい後ろを自分で弄るにが気持ちよかったらしい。
 中を熱心にいじっていた手を止められ、くちゅりという粘着質な音と共に引き抜かれる。指が抜けたそこは何かを欲しがるように収縮していた。広げられている両脚を押さえつけて中に押し込んだらさぞ気持ちいいことだろう。初めてあの子を抱いたときに受け入れるための準備が施されたそこに挿れたけど、そういえば人間の身体って抱かれてる内に慣れてきて後ろも体液で潤うようになるなんて話があったっけ。腸液は本来潤滑の役割を果たすものじゃないが、そこまで身体を作り替えればもう同性としかできなくなるんじゃないかな。
 人の気持ちを信じていないらしいあの子の心を変えるよりも身体を先に作り替えてやってから、こんな君を相手にしてあげるのは俺だけなんだよと囁いて、俺も君だけがいいなと甘い言葉を毒のように流し込んであげれば籠絡できるだろうか。それなら俺としても、同性とするなら何をどうするのが一番気持ちいいのか色々調べることにしよう。帝人君の身体だけを変えるのはフェアじゃないしねえ、と考えながらそんな自分の思考に苦笑する。簡単に手に落ちてきてくれないからかもしれないが、自分で思っている以上にあの子に溺れているらしい。俺がここまで思うことがどれだけ珍しいことか、俺のことを色々と調べてわかった気になってる帝人君に教え込んでやりたくなる。
 いささか自分の愛情表現は歪なんだとは思うけど、それはこんな動画を笑みを浮かべながら見れてるんだから言うまでもないことだ。考えてみれば、普通は自分の好きな相手がこうやって他人の手に触れられたりしていたら憤りを覚えるものなんじゃないかな。俺としては自分ができないようなことをやっているこれは楽しんで見れるものなんだけどね。
『あ、や、待って、まっ、』
 男性器を模したものが脚を広げている帝人君の後孔にあてがわれる。それまでにされていた経験から今の自分の状況が目隠しをされた状態でもわかったんだろう。












サンプル終